「大変だ!」
集会所で集まっていたオイラたちは、突然に飛び込んできた声に振り返った。随分と慌てた様子で、太郎のやつが入り口にもたれかかっていた。
どうやら今週末に行われる祭りが開催できそうにないみたいだ。昨日の大雨で祭りの会場が使い物にならなくなったらしい。しかも祭具や道具を保管していた倉庫にも被害は及んでいて、いくつかは使い物にならなくなってしまったようだ。
これでは決められた祭りの日に祭りができない。祭具の準備や道具の発注はすぐにはできない。
「非常に深刻な事態じゃ」
まとめ役の村田のじいさんが深刻な顔をしていた。いや、集会にあつまった全員が同じような顔をしている。きっとオイラも同じ顔だ。
祭りは神様に捧げる儀式だ。それをずっと、毎年同じ日にやってきた。遠い昔からの神様との約束だそうで、たった一度を除いて破られたことはないらしい。そのたった一度の時は、とても恐ろしいことが起こったという。村の人間の半分は死んで、逃げ出す者にも容赦はなく、全員が村のすぐ近くで死んでいたと伝えられている。あまりにも恐ろしかったのか、村の書物には多くのことは書かれていなかった。
「とにかく、急いで準備をするのじゃ!」
村田のじいさんの鶴の一声で、全員すぐさま行動に移った。無事な道具の確認と何が無事で、何が必要なのかをリストアップして急いで用意をした。しかし、それでもこんな田舎の村で全てを用意するのは難しく、本来の祭りの日には間に合わず、その翌日に開催されることになった。
神罰はまだない。希望はある。みんなで一生懸命に祭りを行った。オイラも神様に捧げる踊りを懸命に踊った。
「これにて今年の祭りを終了する!」
村田のじいさんが締めくくった。みんな緊張していた。神罰はないか、何か異常はないか。一秒、二秒と過ぎていくごとに落ち着いた顔が増えていく。安堵感が伝わっていき、オイラも大丈夫な気がしてうつむきがちだった顔が上向きになった。
さっきまで晴れ渡っていた空に真っ黒な分厚い雲が現れ、夜かと思うほどに暗くなった。不吉な予感を誰もが感じていた。オイラは自分でもわかるくらいに血の気が引いて、寒気が襲ってきた。
暗闇の中で走る一瞬の閃光があったと思えば、となりのやつが死んでいた。音もない雷が直撃したんだ。
雨は降らなかった。湿った空気が重苦しく流れていたけど、一滴も降らなかった。代わりに降ったのは雷の雨だ。村人のちょうど半分の数の雷が音もなく降り注いだ。後に残ったのは黒焦げの死体。村中が焦げ臭かった。
これがこの村で起きたことだ。オイラはちゃんとした文章を書くのは苦手で、抜けてる部分もあるかと思うけど。この時に起きたことをちゃんと残しておきたいと思って、ここに書き残した。
多分、どこの祭りにも何か意味がある。だから大切にしてくれ。なにがあっても祭りができるように気を付けてくれ。決して忘れないでほしい。じゃないとまた、繰り返してしまうから。