ごく普通の街にある、ごく普通のトイレにはとても普通ではないことがよく起こっていた。
そのトイレは多目的トイレで、いろんなことに使われていた。
人が寝静まった深い夜では、全身黒づくめの怪しい男たちが何やら怪しい白い粉を取引していた。この街は海に面していて、輸出入を行う港がある。数あるコンテナの一つにはとても口にはできないようなものが入っていることがある。そして多目的トイレから売人の手に渡り、全国へと広がる。
ある日の人の多い日中では、街に怪獣が出現した。人々は混乱し、建物は次々と崩壊していく。そんな中、一人の男が人の流れに逆らい多目的トイレに入っていく。男は持っていたボストンバッグから、派手なコスチュームを取り出した。いそいそと着替えたその姿は、体にぴっちりと吸い付くようなコスチュームが彼の隠れていた筋肉を派手にアピールしていた。それから覆面を被り、バッグをその場に残したまま多目的トイレを出ていった。怪獣は派手なコスチュームを着た男に倒されたらしい。
夕方ごろになると、学生たちが街にちらほらと現れる。下校する時間になり、家路についているのだ。バスや電車に乗っている学生が多い。ピークの時間になると、様々な制服を着た学生たちが街のいたるところにいる。そうすると、必然的に多目的トイレを利用する学生もいる。学ランを来た少年が多目的トイレに入った。しばらくすると、かけていたはずの鍵がひとりでに開いた。そして新たに多目的トイレに入っていくが、先に入っていたはずの少年の姿はなかった。この多目的トイレでは、ごくまれに異世界への扉が開かれる。扉が開かれている時にその場にいる者は異世界へと招かれて、それ以降その者の姿を見た人間はいないという。招かれれば帰ってこれないのだ。
日が沈んで夜になれば、街では夜間営業の店が開かれる。その時間では仕事を終えたサラリーマンたちが我が家へ帰り、飲み屋にも多くの姿がある。スーツを着た男が多目的トイレに入った。仕事帰りなのだろう、少し疲れているようだ。スーツの男は内ポケットから鍵を取り出した。その鍵はとても大きくカラフルな石で装飾され、家の鍵というにはあまりにも御大層なものだった。スーツの男は、劣化してできたような壁の穴に鍵を差し込んだ。差し込んだ鍵は光を放ち、床が割れて地下深く続くような階段が現れた。スーツの男は鍵を取り戻し、階段を下りて地下へと潜っていった。実は、この階段の先はとある秘密結社のアジトへと続いている。その秘密結社は強大な権力と科学力を持ち、目的は不明だ。ただ、アジト周辺のマンホールの奥底からこの世のものとは思えないような生き物の声が聞こえるという。
この街の多目的トイレは多くの目的で使われる。芸能人がいかがわしい目的で使うこともあれば、普通に用を足す目的で使われる。本当に多くの目的で使われる、ここは多目的トイレ。今日も誰かがなにかをしている。
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あとがき
お読みいただきありがとうございます。
こちらの小説は、とある芸人の不倫騒動で話題になった多目的トイレから着想を得ました。
トイレという密室ではなにをしているのかわからないません。
監視カメラをつけるわけにもいきませんから、本当に謎だと思いませんか?
もしかしたら常識から逸脱した超常の何かが起こっているかもしれない。
そんな妄想でした。
それでは、お目汚し失礼しました。