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神様の箱 第2話 光の価値

神様の箱

目が覚めたら、木造建築の天井が見えた。どうやら僕はベッドで寝ていたらしい。なんでだっけ。

「あ、起きたか」

ミレイが二つ並んだベッドの片方でくつろいでいた。

「悪いな、疲れてたのに振り回しちまって」

僕は急に倒れたらしい。確かに今日一日で色々あったから、知らずに疲れがたまっていたのかもしれない。

この宿は博物館に近いところで、あまり目立たない古いところだった。もともと、この宿で準備をしてから盗みに入るつもりだったみたいだ。

部屋にはベッドが二つあるだけで、あとは特にこれといったものはない。寝るだけの部屋といった感じだ。

「もう体調はいいのか?」

「うん、もう大丈夫」

「そいつは重畳。それじゃあ、作戦会議だ」

ミレイの作戦は、屋根から忍び込んで目的のペンダントまでは天井と壁を伝って行くというものだった。それも今夜。天井を伝うという意味もよくわからない。天井に張り付いて移動するのか? ヤモリか?

「今夜っていうのは急すぎじゃない? もう少し調べてからでも遅くはないと思うけど」

「いや、こういうのは早いほうがいい。綿密に立てられた計画ほど上手くいかなかったりするからな、あんまり時間をかけると勘付かれて警戒されるかもしれない」

……一理ある。

「それに、帰りはお前の抜け穴を使う。あれがあれば大抵の事態はなんとかなるだろ」

「行きはいいの?」

「出た先で見回りに出くわしたら面倒だろ」

確かにそうだ。ミレイは乱暴なようで、けっこう頭が回るようだ。

ミレイはほかに僕がなにができるのか聞いてこない。持ってる手札は把握しておいたほうがいいと思うけど、なにか考えがあるのかもしれない。

「閉館の時を狙っていく。まだ時間はあるからもう少し休んどけ。アタシは寝る」

それだけ言ってミレイは寝てしまった。

作戦会議はこれだけでいいのだろうか。もしかして一流には無用ということか。アウトローな感じのミレイだ。盗みに関しては一流なのかもしれない。実質、僕がやることといったら帰りのワープゲートを開けるだけだ。実際に盗むのは全てミレイが行う。手伝うことはない。

「なんでこうなったんだっけ?」

誰に問いかけたわけでもない疑問が空中で解けて消えた。

たっぷりと休んで、完全に夜になった街の上空を僕は飛んでいた。上を見れば写真でしか見たことがないような満天の星空が広がる。外の世界で、こんな綺麗な夜空が見れるところなんてあるのだろうか。今でこそ少しマシになってきたが、文明の発展と引き換えに自然を壊してきた人類はこの美しさを捨ててしまったのだ。実にもったいないことをしたと思う。

ところで、この世界は僕が作ったものだから、この星空を褒めることは自画自賛ということになるのだろうか。製作者であることは間違いないけれど、材料をぶち込んだあとは放置していただけだから創ったという意識は低い。かき混ぜることはしたけれど、あれだけじゃ料理よりも工程が少ない。材料を入れてかき混ぜるなんてぬか漬けのようだ。あまり時間もかけていないし、水槽世界は浅漬けだったみたいだ。

「おら、着いたぞ」

お尻を叩かれた。痛い。結構強くやられた。

「ほら足元気をつけろよ」

そんな優しい言葉をかけるなら叩かないでほしかった。

僕はまたもやミレイに担がれて宿屋から博物館に移動した。屋根から屋根へと飛び回る姿は忍者かと思うほどだった。異様に足音が小さかったし。これがレベル100のパルクールというやつか。

博物館は上から見てもとても大きかった。屋根は全体が少し盛り上がってるくらいで滑って落っこちる心配はない。博物館の周辺では、警備員が魔法の明かりらしい光球を浮かべて巡回していた。でも地上からここは死角になっているからどうあっても見えない。

「ここで待ってろ。すぐ獲ってくるから」

ミレイが腕や足を伸ばしてストレッチをして体の準備を整えながら言ってきた。ここには光源がなく真っ暗で、たとえ死角でなくてもよく見えない。

一通り伸ばした体を重力に任せて屋根の縁から落とした。そのまま外壁を滑るように落ちて、窓に吸い込まれていった。窓は閉まっていたはずなのに音もなくガラスを破っていった。ほんとに忍者のようだ。

満天の星空の下、僕一人だけが残された。

この世界でも変わらず星空は綺麗なものだ。これを自分が作ったものだと思うと誇らしく思う。星座のことはよくわからないから適当に作ったけど、水槽世界の人たちはこの星たちを線で結んで星座を作ったんだろうか。ミレイが戻ってきたら聞いてみよう。でも、ミレイが星座なんてロマンチックなものを知っているだろうか。学校も行ってなさそうだから知らなくても無理はないけど、知る機会があってもそういうことは興味がなさそうだ。

そもそもここの教育水準はどれくらいだろう。義務教育というものがないのかもしれない。そう考えると僕は恵まれていた。小学校と中学校は無償で通うことができたし、高等教育も受けさせてもらっている。嫌なことも多いけど、魔術学校に通うよう奴らはみんな勉強が大好きで一日中術式を書いては叫んでいる。ここの式が調律がとれていて美しいだとか、触るとバランスが崩れる殺すぞだとかで、とても愉快で人間関係に悩むことはなかった。僕も含めてみんなぼっちだったから。成績が良い奴も悪い奴も術式について意見を交換すれば口論し、新しい術式が出来れば絶叫してた。

帰りたくなってきた、外の世界に。ホームシックかな。望んで来たわけじゃないからずっと帰りたかったけど、その想いが強まった。もう一度、創造システムの術式を見直してみよう。もしかしたらどうにかしたら戻れるかもしれない。

あ、そういえば。ミレイのDNAを解析しているんだった。もう結果が出ているはずだ。

待機状態のコントローラーを起動しようとしたところで警報が鳴り響いた。あまりに突然だったからびっくりして胸がキュッとした。

ミレイが警備に引っかかったようだ。あまりに早い。失敗した?

「見つかった!」

屋根を突き破ってミレイが出てきた。砕かれた石の破片が飛び散り、ホコリが舞う。ここは確か遺跡をそのまま博物館に利用した建物だったはず。簡単に壊していいものではない。それを豪快に壊して出てきやがった。めちゃくちゃで頭のおかしいミレイには歴史の価値がわからないようだ。

「逃げるぞ逃げるぞ! 準備はできてるか!?」

「で、できてる! この穴を通ればすぐだ!」

「よっしゃあ! ずらかるぞ!」

ミレイは雄たけびとともに、何の迷いもなくワープゲートに飛び込んでいった。

さぁ僕もおさらばだ。ぐずぐずしていると捕まってしまう。あ、そうだ。その前にミレイが壊した屋根を直していこう。時間遡行くらいなら訳無いことを今の今まで忘れていた。外の世界では面倒な手順が必要な逆行魔術も、コントローラーを使えば簡単にできる。普段ではできないありとあらゆることができるから、なにができるのかがよくわかっていない。

壊れた屋根に手をかざして手のひらを返す動作をするだけで、瓦礫となった石のブロックや木材の建築資材が動画を巻き戻したように、屋根に空けられた穴に吸い込まれて元通りになった。コントローラーのショートカット機能だ。この機能は水槽の外から何かをいじって間違えた時に、一つ前の状態に戻すためにつけた。

水槽の中では初めてやるもんだから加減が分からず戻し過ぎたかもしれない。逆行をしたところがほかと比べて色が違う。まぁ壊れているよりはいいでしょ。

「おーい! なにしてんだー!」

ミレイがワープゲートの向こうで呼んでる。もう行かなきゃ。

大勢の足音が近づくのを聞きながらその場を後にした。

宿に踏み入り後ろ手でワープゲートを閉じる。うっかり開けたままだと入ってこれてしまう。

「見ろ、盗れたぜ」

手の中で転がしていたのは、昼間見たペンダントだった。騒ぎを起こしても目的は果たせたようだ。僕を抱えて街を飛び回れる身体能力は伊達ではない。

「よくあんな短時間で取ってこれたね」

「別にあんなのぱぱっとできんだけどよ、こいつのケースに触った瞬間にトラップに引っかかって警報が鳴ってな。しかたねーから壊して盗った。別にあの程度なら時間はかけねーよ」

なんとも強引なやり口だ。これ、僕はいらなかったんじゃないか? ミレイなら、誰にも顔も姿も影さえも見られることなく逃げおおせるのは朝飯前だったのでは?

それから、僕らは朝に街を出ることにした。今、急いで大樹の村に帰っても、この街を出る途中で誰かに目撃されたら面倒だ。博物館で盗みが行われてすぐに出立する人間なんてものすごく怪しい存在だ、放っておくはずがない。悪いことをするときは常にしょっぴくやつの考えの裏を読め、というのは彼女の言だ。

「おーおー野次馬が集まっていってるぞ」

宿の窓からでも人の多くが博物館のほうへ向かってるのがよくわかる。きっと今頃は大きな人だかりができていることだろう。

「こういう時に動く組織ってこの街にあるの?」

治安維持組織がこの世界にもあるのだろうか。疑問に思ったことをミレイに聞いてみた。国や街がある以上、治安を維持する必要があるからあるはずだけど、どんな組織なんだろう。軍隊が兼任している形なのか、それとも警察のような専門の行政機関が存在するのか。

「もちろんいるぜ。結構な無能だけどな。国中で色々やってきたけど捕まったことないし追われたこともないからな」

ミレイの足なら顔も見られないだろうから、怪しまれることも追いかけられることもないだろう。まさに尻尾を掴むこともできない。もしかしたら尻尾を捕まえてもトカゲのように尻尾を切って逃げることもできるかもしれない。できそう。蛇を飼ってたし。そういえばあの蛇はどんな蛇なんだろう。縛り上げられたときは鎖かと思ったくらいビクともしなかった。尋常じゃないほどの力と硬さだった。水槽世界特有の環境による影響だろうか。

「朝飯食いに行くぞ。朝は広場で屋台が開いてんだ」

この街は朝に屋台が多く開いて、住民はそこで朝ごはんを食べるらしい。アジアのほうにそんな文化があったような気がする。街並みは外の世界でいうイタリアやフランスといったヨーロッパを思わせるような、レンガや石造りなのに、ところどころアジアの文化を感じる。特に食文化はそれが強い。

多くの屋台が並んでいた。どれも美味しそうだったが、お粥が名物だというのでそれを食べることにした。他にも餃子や照り焼きチキン、唐揚げも頼んだ。どれも名前が違うので、どれもこれも何かに似たものだ。

最初は人があまりいなかったけど、だんだんと混んできた。博物館に行っていた野次馬たちがこっちに来たのだろう。僕らはちょうどいい具合に混雑を避けてご飯を食べることができた。

食事を終えてからのんびりと街を出た。何かを言われることも怪しむ視線も感じることもなかった。てっきり荷物検査くらいはあるかと思っていたけれど、そういうところもザルのようだ。

「帰るのに僕の魔法は使わなくてよかったの?」

そうすれば余計な心配をすることもなかったろうに。

「入ったのに出ないのは不自然だからな。よし、このへんでいいだろ。大樹の村までの穴を空けられるか?」

このまま歩いて帰るつもりはないらしい。便利に使われている気がするが、僕もそんなに歩きたくないし昨日のように担がれるのもいやだ。

街からけっこう離れたところで空間に穴を開けようとして、脳内に小さな警告音が鳴った。どうやらもうひと騒動あるようだ。勘弁してほしい。僕はごく普通の学生なのに。不安で胸がキュッと締め付けられる感じがした。

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個人を指して混沌と表現することは無いと思う。なのに、僕はそれ以外の言葉が思いつかなかった。ぐちゃぐちゃで、複雑で、統一感が無くて、酷く気持ちが悪かった。

博物館を出て、ミレイの後ろについて歩いている時にすれ違った男を目にしたときだ。解析機能をつけっぱなしにしていたから、男の情報が網膜に映し出された。情報が全然出てこなかった博物館のオルゴールと違い、情報の奔流に溺れた。視界いっぱいの情報量に、平衡感覚が狂って足がもつれて転んでしまった。

「君、大丈夫かい」

差し出された手。男の手だ。男性にしては細めできれいな手だ。またもや情報に目を焼かれる。顔を上げて男の顔を見ようとしたが、視界が膨大なテキストやグラフと数字に埋め尽くされて消えないせいで全くわからない。

「大丈夫か? こいつ、アタシのツレだ。アタシにまかせな」

ミレイが僕を抱えて肩を貸してくれる。少しだけ見えた男の足が遠のいていった。子連れなのか、小さな足がそれに続く。

「どうしたんだよ、昼飯がアタったか?」

視界が開けて平衡感覚も元に戻ってきた。

「ごめん、ちょっと立ちくらみしただけだよ」

結局、あまりの情報量で男のことはよくわからなかった。履歴を見返すこともできたけど、あんな量を見る気は起きなかった。

その後、ミレイが宿に連れてってくれたようだけど。僕は意識が朦朧としていてその時の記憶がなかった。

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