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神様の箱 第6話 水の街

神様の箱

人間にはどうしようもないさがというのがある。人の性質というやつだ。ダメと言われればやりたくなるのは人間のさがだし、隠されているものを暴きたくなるのもさがだ。人にはそれぞれ持って生まれたさががある。トラブルに遭いやすいとか、懸賞が当たりやすいとかだ。良くも悪くもその人を構成するものの一部で、変えるのは難しい。

僕のさがはここ最近ようやくわかった。気にしたことはなかったけど、こうも立て続けにあるとどうしようもないさがというやつだと思う。外の世界ではあまりなかったから、水槽世界に来たきっかけで覚醒したのかもしれない。もしくはこの世界だけの限定的なものなのか。それはきっと確かめようも無いことなのだ。

「見ねえ顔だな! よそもんか!」

「ちょっとジャンプしてみろや!」

悪い輩に出くわすことが多い。口調が乱暴で横柄な態度で、いたずらに周りの人を怯えさせる迷惑な人種だ。山賊は最高に悪かったからこいつらはまだマシなのだけど、だからといって歓迎する気持ちは微塵も無い。

ミレイを始めとして、この世界に来てから口調が荒い人ばかりに会う。もしかしてこれが標準語だったりするんだろうか。それだったら嫌すぎる。唯一シャリルさんだけが普通だ。僕のような人畜無害なパンピーには生きにくい世の中だ。

近くにミレイはいない。二手に分かれて情報収集をしている。

僕らが今いるのはウォースバード。隅々まで水路が張り巡らされた水に満たされた街だ。移動手段には主に船を使い、水路を伝って街のどこへでも行けるようになっている。

当初、依頼を受けるのはいいが手がかりも無しにペンダントなんか探せないと、途方に暮れていたら依頼人がレーダーのようなものを借してくれた。これが反応を示すところにペンダントがあるらしい。反応がある方向に向けて進んでいくうちに、ウォースバードにたどり着いた。

街は広いからレーダーを使っての捜索を続けようとしたが、反応がある場所がころころと変わる。あっちに反応があればあっちに行き、こっちに反応があればこっちに駆けつけていたが、どうにもペンダントは見当たらない。道の真ん中を指していたり、建物の中に反応があったりと法則性が無かった。このままでは永遠にいたちごっこをしなければいけない。というわけで、とりあえずこの街について情報を集めることにした。

そんな別行動をした矢先に絡まれた。二人の不良は気弱そうな余所者が良い獲物に見えたようだ。

あぁ、こんな時どうすればいいんだ。助けて神様。

「おい」

突如後ろから聞こえてきた低い声は、怒りを隠そうともしていなかった。後ろから襟を掴まれた不良は無理矢理に体の向きを変えられた。そこにいたのはミレイだった。

「アタシの相棒に手ぇ出してんじゃねぇよ」

睨みつける目はギラギラとしていて、目に見えないパワーを持っていると思わせるほど凄んでいた。普段のふざけた様子とはまるで違っていた。ミレイはかなり強いと思う。身体能力は非常に高く、その脚力は異次元だ。戦闘能力も高レベルだろう。実際に戦っているところは見ていないが、僕がぼろぼろにされたあの山賊のもう片方に勝っている。山賊は強かったはずだ。ミレイ自身も強いと断言していた。その相手を大した怪我もなく倒している。シャリルさんに聞いたが、ミレイは治療していないと言っていた。大きな怪我をしているならシャリルさんのお世話になっているはずだ。その高い実力が今ははっきりと分かる。雰囲気が違う。そんなミレイを目の当たりにした不良たちは、いきなりの威圧に慄き蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

「怪我ないか?」

「あ、うん、大丈夫」

さっきまでの攻撃的な雰囲気は鳴りを潜めていつも通りのミレイに戻っていた。

相棒。相棒か。ミレイは僕のことを相棒と言った。そんなふうに思っていたのか。その真意はわからないが、一時的な関係で終わるつもりはないということだろう。じゃなきゃ相棒なんて言葉は使わない。例えば背中を預けるような、信頼する右腕のようなそんな存在。僕がそれだということか。

不意打ちだ。急襲だ。突然現れてそんなことを言うなんて。

他人からの好意に嫌悪を感じる人はあまりいないだろう。嫌いな人間から向けられたのならともかく、友人や恋人でなくとも悪く思っていない人間からの好意は受ける側としても好意的に受け止められる。女の子から向けられる好意は、恋愛的な好意じゃなくても、良き友人としての好意でも良いのだ。どんな形でも好意は嬉しい。

僕は女の子に免疫がない。勉強ばかりしていたし、周りの級友もそうだった。当然、恋愛経験もない。そんな思春期男子が、恋愛的なことじゃなくても好意を向けられればどうなるかは一目瞭然だった。

「アタシが調べた限りだと、この街にはでっかい地下水道があるらしい。多分そこを移動してるんだろうな」

「ごめん、こっちは何も分からなかった」

「ゴロツキに絡まれたせいだろ。気にすんな」

ミレイが男前すぎる。美人でしかも男前だなんて最強じゃないか。昔だと、生まれながらの男である僕は男らしくないだとか、男の子ならもっとしっかりしろだとか言われるんだろうけど、今の時代にそういうのはもう古い。男女は平等で、男も女もそれぞれ度胸も愛嬌あったりなかったりするのだ。水槽世界ではどういった価値観なのかはわからないけど、少なくとも僕の世界だとそうなのだ。

それに人にはそれぞれ向き不向きがあるし、得意不得意がある。

「それで問題があってな。地下水道が広すぎて誰も全容が分からないらしい。なんでも何世代にも渡ってやたらめったら掘っていたらしくて、もう使われていないから魔獣が住み着いてるなんて噂もある」

「そういうことなら、僕が地図を作る。そういうのなら任せてくれ」

地下のことを探るなら地上から魔術を使ってできる。コントローラーならもっと楽にマッピングは可能だ。何かを観測するというのは基本機能だ。そのためのコントローラーだ。新しいことをするわけじゃないからプログラムを弄る必要もないから、どんなに広くて複雑でもほんの十数秒で完了する。

「やっぱ頼りになるな相棒」

「それほどでも」

そのやり取りが何とも気恥ずかしくて、だけど確かに嬉しかった。

“#$%

「じゃあやるよ」

とりあえずとった宿で地下の解析をすることにした。コントローラーをミレイの前で起動する。

「おーすげー」

ミレイは初めて見る青く光る立体映像に感嘆の声が出ている。昔の人に現代の携帯やテレビを見せたようなリアクションにならないのは、この世界が魔法に溢れているからだろう。むしろ外の世界の人が水槽世界の魔法を見た時のほうが濃いリアクションをしそうだ。

隠れて一人でやろうかとも思ったけど、もうこの際だから見せることにした。これで僕がこの世界を創ったというのがバレるわけでもないし、一々こそこそとしていたらそれこそ変な疑いをかけられてしまう。

コントローラーで地下を調べるのに音波や電波は使わない。世界そのものに作用できるんだ、そんなものを使う必要はない。空間に何があるのかを調べる。ここら一帯の地下にどこに何がどんな形であるのかを、分かりやすく立体地図に表す。そこの中に自然にできるとは考えにくいような、人工的な直線や曲線の形をした空気や水があるところが地下水道だ。

「できたよ。これが……地下水道の全容だ」

「でかすぎね?」

そうだ。空中に浮かぶその立体映像はあまりにも大きすぎたのだ。どれだけ解析範囲が広くても負担にはならないし、どれくらいの大きさかも分からないからかなり広い範囲に設定したのだけど、想像の何倍も大きかった。街があるところからはみ出してはいない。ただ、深い。ものすごく深い。こんなに深いと水道として使えるわけがない。深すぎると流れ込んだ水はいつまでも排水できないから、悪臭がして酷いことになっていそうだ。

レーダーは上下には対応していないから、ペンダントはもしかしたら最下層にある可能性もある。

「……」

「……」

これからここに潜るのか。そう思ってしまったら二人とも黙り込んでしまった。動き回っていたからペンダントは魚か何かが持っている可能性が高い。魔獣がいるというのも気がかりだ。

仕方ない。創造システムの力をめいっぱい使おう。少しやり方が荒っぽくなるけど、このままじゃ地下水道に入ることもできないからしょうがない。もう使われていないんだったら迷惑にもならないよね。

「とりあえず、行ってみるか」

何をするにしても実際に見にいってみないと作戦を練ることもできない。どんな状況なのかは現場に行かないとはっきりとしたことは分からないし、何ができそうなのかでできないのかは会議室で判断するのは難しい。目で見て肌で感じたほうが解決策も浮かぶというものだ。

地下水道の入り口はすぐに見つかった。別に隠されているわけでもない。街の隅っこの目立たないところにぽっかりと、石のブロックでできた迷宮への穴が空いていた。

見つかったのはいいのだけど、入り口から見えるところはすでに水で埋まっていた。見た目の水質は悪くはなさそうだ。地下だから当然、日の光は届かないから真っ暗で何も見えない。入り口から階段が降りているが、黒い水面を貫通してその奥へと続いているから、あの世や恐ろしい怪物の元へと通じているような不気味な雰囲気を漂わせている。魔獣が住み着いているという噂も頷ける。これは誰も近づかない。やはり強引な手段に出るしかない。

「水を抜こう」

どうしようかと思案しているミレイの横を通り過ぎ、前へ出る。

よかった、思ったよりも汚れた水じゃなくて。解析をしても有害なものは検出されない。これなら川に流しても問題なさそうだ。

この街から出る水は、近くの川へと流れ出る。そこに地下水道の水を転送させる。やることは難しくない。お風呂の栓を抜くように底に穴を空ければいい。とりあえず、浅めのところにワープゲートを空けて川に繋げる。そうすればあっという間に水位は下がっていった。膨大な熱で蒸発させて乾かすことも考えたけど、そうしたら中に入った時に暑くてペンダントを探すどころじゃなくなる。水素と酸素に分解するのも、もし引火でもしたら木っ端みじんになってしまうから不採用だ。地面が水に濡れて滑りやすくなってたりするだろうけど、これが一番安全で効果的だ。

「これなら行けるね」

「さっすが!」

背中をバンッと叩かれた。褒めてくれるのはいいんだけど、強いんだよな。

「あ、おねーちゃん」

「お、来たか」

小さい女の子がミレイに駆け寄ってきた。おさげの七、八歳くらいの子だ。見るからに姉妹ではない。この街には初めて来たらしいから知り合いというわけでもなさそうだ。

「はい、マスタングが好きなおもちゃ。ほんとに大丈夫? 怖くない?」

「安心しろねーちゃんがちゃんと探してくるから」

ミレイはそう言って、心配そうな顔をする女の子の頭を安心させるようになでた。どういうことだ?

「さっき手分けしてる時にな、一人でふらふらしてるところを見つけたから話しかけたんだ。そしたら、どっかに行っちまったペットを探してるっていうんだ。で、たぶん地下水道にいるんじゃないかって」

そのペットは両生の生き物で以前にも逃げてしまった時に地下水道の入り口付近にいたそうだ。首に着けていたリボンがここに落ちていたから、今回も地下水道にいることは間違いなさそうだ。しかしここは水で埋まっていて捜索はできない。どうすることもできないけど、居ても立っても居られないからほかのどこかにいる可能性もあるから街を探し回っていたらしい。

「どうせ行くんだからついでにいいだろ?」

「うん、いいんじゃないかな」

地下水道は広いけど、解析をすれば生物がどこにどれだけいるのかもわかるから、見つけること自体は難しいことじゃない。難しいのは僕がさわれるかどうかだけど、そこはミレイがいるから問題ないだろう。僕はあまり動物が得意じゃないんだ。

「えっと、マスタングだっけ。どんなペットなの?」

「青くて四足歩行!」

探すにしてもどんな動物なのかわからなければ見つけようがないと思って聞いたけど、なんとも断片的な答えが返ってきた。

「大きさは?」

「これくらい」

女の子は自分の肩くらいに手を持ってきた。けっこう大きいな。この子なら乗れるんじゃないか? それくらい大きいとちょっと怖いかも。大きい動物は噛まれたりするとかなり痛いから怖い。

「どんなのかはアタシが知ってるからいいよ。ほらいくぞ」

襟を掴んで引きずられるように地下水道に連れていかれた。後ろで女の子が小さく手を振ってくれていたから、それに手を振り返した。小さな手は曲がり角ですぐに見えなくなった。

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