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神様の箱 第1話 宝の在り処

神様の箱

人間は人工的に造れるのか。これは難しい問題だ。歴史上、完全な人間が造られた例は無い。新たに魔術という学問が確立されたことにより、科学では実現不可能といわれていたものの研究が盛んに行われた。その中には人造人間、つまりはホムンクルスを造る実験も行われていたという。このホムンクルスというのは、人間の受精卵を用いないものを指す。結果としては部分的には成功したらしい。内臓がちゃんと全部そろっていたが、およそ人間らしい知能はなく、ただ無暗に暴れてすぐに死んでしまったのだ。それ以外にも様々な方法でホムンクルスは造られたが、どれも望ましい結果は残せなかった。それ以来ホムンクルスは倫理的な理由で違法になった。人間は男と女がいて初めて人間を造ることができるという訳だ。そして間違っても、人間はこんな身体能力は持っていない。

僕はミレイに担がれていた。いきなり、仕事の現場に向かうぞと言って僕を担いで走り出した。そのスピードは車と同じくらいで、とても女の子ができる芸当ではない。僕を捕まえて跳びまわったり、巨大な鳥モドキをぶっ飛ばしたり、この娘が特別なのかそれともこの世界の住人はみんな似たようなものなのかはまだわからないが、人間離れしすぎている。

僕の頭がミレイの背中側にあるから、金のポニーテールが目に入って痛い。そこでちょっと失敬して、髪の毛の二本か三本の先っちょを少し切り取らせてもらった。ハサミの代用魔術なら片手で魔術式を空中にちょちょいとなぞるくらいでできるのだ。

コントローラーを起動した時のような魔術式を描くのに使った木の枝は必要ない。コントローラーは今は待機状態にしているからすぐに使える。パソコンみたいなものだ。シャットダウンをしてから起動する時は少し時間がかかったりパスワードが必要だったりするけど、スリープ状態からなら時間もかからないし、パスワードも必要なく復帰することができる。

創造システムのコントローラーは水槽内のことならなんだってできる。DNAを検査できる機械の再現だって朝飯前だ。髪の毛のDNAを検査すれば、この身体能力の謎が少しでも分かるかもしれない。

「よっし着いたぞ。遺跡の街ラバだ」

慌ててコントローラーの拡張された検査キットに髪の毛をしまってコントローラーを閉じた。

ミレイにようやく肩から下されて、自分の足で立つ地面の感触を味わって顔を上げると、なんとも立派な街があった。造りは石やレンガなどが主で、木も使っているように見える。昔のヨーロッパの街並みってこんなのだったと思う。

「ほら、こっちだ。腹減ったろ、飯だ飯」

ミレイにちょろちょろついていくと、いい匂いがしてきた屋台や食堂が集まった商店街みたいなところだ。

「そういえばなにも食べてなかったな」

朝起きてから何も食べていないことを思い出した。この水槽世界に吸い寄せられてから驚くようなことばかりだったから忘れていた。学校に行く途中で適当なものを買って食べながら行くつもりだったんだ。

太陽が上のほうにあるからお昼かな。街の人たちも屋台や食堂に集まっているみたいだ。

店に入っていくミレイについていく。そこは大きな鍋がそろった大衆食堂みたいなところで、調理器具がぶつかる音と客の話し声でかなりにぎやかだ。あっ、厨房の料理人が火を吹いている。ミレイが言っていた魔法というやつか。それで火加減を調整している。チャーハンが美味しくできそうだ。

空いてる席に座って壁にかけられたメニューを見て気づいた。文字が読めることに。僕の母国語と同じなんだ。世界が違うから言語も違うのが当然のはずなのに、全く同一というのはおかしなことだ。

僕が壁のメニューとにらめっこしているのを尻目に、ミレイは適当に料理を注文していた。

言葉が通じるというのもおかしな話だ。突然のことが多すぎて気が付かなかったけど、僕らの世界とこの水槽世界がつながっていなければこんなことはありえない。偶然の一致? 世界には六千九百もの言語があるといわれているのに、接点のない土地の言語が一緒というのは、不気味ささえ感じる。僕にとっては好都合ではあるのだけれど。

「ほら、ボーっとしてないで食うぞ」

いつの間にか料理が来ていた。テーブルいっぱいに皿がぎゅうぎゅうに置かれている。かなり多いぞ。ミレイってけっこう食べるんだな。

肉や魚、野菜の料理がいろとりどりそろっていた。煮込んだものに焼いたもの、パンや米もある。和洋中の、とにかくみんなが好きそうなものだ。

これはラーメンだろうか。肉と野菜のスープの中に麺もいっしょに入っている。スープの色は透明に近い。レンゲのようなもので口に運ぶ。塩ラーメンのようだ。

ほかにはチキン南蛮に似た、揚げた肉に茶色のソースをからめて、その上に具だくさんのマヨネーズに似たものをかけた料理。卵を焼いたような黄色いもの。魚の塩焼き。肉の串焼き。焼いた米。全部美味しかった。案の定、半分以上はミレイが食べたが、お腹が空いていたから僕もいつも以上に食べていた。お腹がいっぱいだ。

「博物館に向かう」

コップいっぱいに注がれた水を一気に飲んで一息ついたミレイは急にそう言った。観光でもするのだろうか。数時間の付き合いでしかないが、ガラじゃない。

「そこであるものをいただくのが仕事だ」

「それはつまり、いわゆる泥棒というやつ?」

「そう思うやつもいるかもな」

少なくとも僕はそう思います。

「依頼人が言うには先祖伝来の秘宝がそこにあるらしい。昔盗まれちまって、やっと見つけたと思ったら博物館に展示されていたんだと。返してもらうように交渉しようとしても聞く耳持たず、金の用意があると言っても返事はノー。んで、最後の手段として盗むことにしたが、そういうことはしてこなかった連中だ。盗める奴なんていやしねぇってことで、あたしに依頼してきたんだよ」

取り返すということか。そりゃ、先祖代々受け継いできたものが盗まれたんじゃご先祖様に面目が立たないだろうな。僕の家にはそういったものはないけれど、大切なものを失う気持ちはわかる。

「とりあえずこれから下見に行くぞ」

ミレイはお金をテーブルに置き、立ち上がってそう言った。

博物館前の広場には多くの人がいた。ちょっとした屋台が出てて、奇抜な恰好をした大道芸人が水を自由自在に操って周りの観客に投げ銭を帽子にもらっていた。

あっちではお菓子や、立って食べられるような料理が売られている。さっきたべた串焼きもある。焼きそばみたいなものもある。歴史ある博物館の前なのにみんな自由にやっている。怒られないのかな。

博物館は思ったよりも大きかった。受付で聞いた謳い文句だと、この国中で最も規模が大きい博物館で、世界的に見ても展示品の学術的な価値はとてつもないのだとか。門構えも立派で、大きな石のアーチをくぐると、巨人でも問題なく入れそうな荘厳な玄関が待ち構えていた。建物そのものも遺跡を利用したもので、来場者が一番最初に目にする展示物はこの博物館そのものらしい。パンフレットの最初のほうに書いてあった。思ったよりもすごいところだ。

博物館の中に入ると、ミレイが天井を見上げて、ほえーとか言ってる。ミレイでもこの博物館の迫力には開いた口が塞がらないといった感じだ。高い天井には空に舞う天使が描かれている。

館内も外観と同じく荘厳な意匠で、歴史を感じさせるものだ。一部、後から作ったようなところがあるが、元の遺跡の雰囲気を損なわない程度のものになっている。

案内の通りのルートを辿っていくと、いよいよ展示物が見えてきた。展示されているらしい品は、学生の僕の目から見ても魔術的価値がありそうなものもたくさんあった。概念的な力を高めた武器の類や、それ自体に魔術的な力がある魔導書。怪しげな儀式に使うような天秤に特殊な能力を与えられた財宝。色々なものがある。これでもまだまだ全体の半分くらいだ。しかも奥に進むごとに歴史が深く、希少な品になっていく配置みたいだ。ここまででもすごいのに、これ以上があるのか。だとしたら、外の世界に帰れる足がかりがあるかもしれない。

「よくわかんねーけどさ。なんかすげーってことはなんとなくわかるよ」

展示に夢中になっていると、ミレイが横から顔を出してきた。

「こん中にお前が欲しいと思うやつもあるかもな」

ドキリとした。心を見透かされているのか。今思っていたことを言い当てられた。

「魔法使いってこういうの好きなんだろ?」

ああ、そういえば捕まったとき魔法で脱出したと思っているんだった。厳密にいえば魔法じゃなくて魔術だ。この世界の魔法というものと僕らが使う魔術は、ここの展示されているものを見るかぎりでは少し違うみたいだ。術式の複雑さが全然違う。魔術のほうが緻密で洗練されている。魔法はその弱点をここの武器や魔導書たちは素材の力でカバーするのかもしれない。魔法を見たのは食堂で火を吹くのと、博物館前の広場でやっていた水を操る大道芸しかないから、まだ全然わからないけど。

そうだ、コントローラーの解析機能を使おう。ローブの内側でこっそりと命令を入力して、網膜に解析結果を映し出すようにした。これで、この目で見たものはあらゆる情報が筒抜けになる。大きさも年代も秘めた力も、だ。

「お、これなんかどうだ? なにに使うのか全然わかんねーけど」

そう言ってミレイが指をさしたのは……なんだこれ、変な形だ。状態はしっかりしていて、凹凸がいっぱいで、いくつもの輪の中に透明な玉が収まっている。大きさはバスケットボールくらいだ。年代はご、五千年前!? 古代の代物じゃないか。よくもまあ、こんなオーパーツが今まで壊れずに現存していたものだ。

「す、すごいけど。これはあんまり役に立たないと思う。使用済みかな」

解析してみたら中身になにかがあったようで、これはもう空っぽの状態だから何かに使えるようなものではないようだ。ただ、容量がすごい大きい。いったいどれほどのエネルギーが入っていたんだ。

「ふーん」

「ところで、依頼されたものはどんなものなの?」

「ペンダントさ。青色の丸っこい玉がぶら下がってるやつだ。もうそろそろあるはずだぜ」

さらに先へと進んでいくと、依頼されているものが見つかった。深い青の玉に水色の文様が水面下に浮くように刻まれている。とても古くて、さっきのオーパーツと同じ年代に作られている。このペンダントも詳しいことはわからない。何かにはじかれている気がする。

依頼人は、ものすごく古い家系みたいだ。五千年の間、ずっと子孫たちはこのペンダントを守ってきた訳だ。そんな家は外の世界にはない。少なくとも僕は聞いたこともない。今は盗まれてしまっているけど。

説明欄には名称は不明で、わからないことが多いがとても古く価値があるものという感じのことが書いてある。

「ねえ、ミレイ。これってなんか名前あるの?」

「うん? あー、なんだったか。えっと、たしかー」

うんうん唸っている。これは出てこないかもしれない。

「ダメだ。完全に忘れた」

やっぱり出てこなかった。

大きい博物館なだけあって展示品の数もすさまじかったが、もうそろそろ終わりに近づいてきた。この辺になると古すぎて逆に力を失っているものも多くなってきた。

正直、魔術的に役に立つような、目ぼしいものは前半にしかなかった。外の世界に戻るための足がかりになるようなものも、手がかりになるようなものも今のところ何一つなかった。

ミレイはというと、展示にはもう飽きてしまったようで侵入経路の確認に行ってしまった。

とうとう最後になってしまった。さて、いったいどんなものなんだろうか。

金色の人形が中に入ったオルゴールだ。特になんてこともないものに見える。張り出されている説明文も、ただオルゴールとだけ書いてある。確かに古い物なんだろうけど、これより前にあったペンダントや魔導書のほうが価値が高いように思う。

解析結果が目に映し出された。不明の文字。このオルゴールは全く未知の素材で作られているようだ。少なくとも外の世界では見つかっていないものだ。この世界特有のもの? でも、この世界を作るのに使った素材はありふれたものしかない。変な風に混ざって未知の合金でもできちゃったのか?

「おーい、そろそろいくぞー」

ミレイが呼んでる。窓から見える空も夕焼け空になっている。もうそんな時間なのか。

「今行くよー」

オルゴールの存在に後ろ髪を引かれて、肩越しに振り返りながらも、ミレイが待つ出口に向かった。

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