「上手ク、いっているだろうカ」
言葉を発したものは憂いていた。ここにはいない者と、大事な宝のことに対して。
襤褸のローブを身に纏い、フードを深く被っているため表情はわからない。
そして、それは一つではなかった。同じ格好をした姿がいくつもある。
「問題なイだろう。あの方ノ末裔だ、ヨく似ている」
「私は、似テいるからこそ心配だ。主ハお転婆であったからな」
「ダが、より洗練さレてもいる。ただの素養だったものが能力にマデなっている」
「ここの空気に晒されテ、五千年だ。当然の変化といエる。遅いくらいデはないか?」
「そうかモしれない。しかし長い時ダ。我々ハ限界が近い」
「もう代替品も無イ。なぜこうなるまで、主の血族を見つけられなかっタ?」
「それハどうしてもわからなかったことだ。ある時を境に痕跡が消えたノダ」
「この世界ノことなど、五千年経ってもわからないコトのほうが多い。想像できないことが起きても不思議でハない」
「しかし、不幸中の幸いダ。見つけられた上に、素質は申し分なイ」
「継承権も、持っているのはあの者だけダ。必ず、覚醒させるだろウ」
「ソうだ。二つに分かたれていたことは想定外だったガ、それも機能の一つダ。問題ないだろウ」
襤褸の群れは口々に言い、自分たちの最後の役目に想いを馳せる。
顔はおろか、素肌も見えないその様子は未来の無い浮浪者のようだが、その声音には高潔な信念と志が宿っていた。
「やることは変わラない。我ラ近衛兵、主へ恩を返せなかった無能だが、朽ち果てる前ニ宝を返還いたす」
もう託し終えた。あとは見守ることだけ。行く末を見届け、動かなくなるだけ。
襤褸たちは静かに待つ。至宝が、主人の血族の下へ還ることを。