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神様の箱 第4話 宿り木の鳥

神様の箱

時は少し巻き戻る。タカミと別れたミレイは、山賊との戦闘を終えていた。

「けっこう強かったな」

ミレイの足下には大槍持った山賊が横たわっていた。全身ボロボロで、打撲の痕が多い。目の上に大きなたんこぶができていたり、身体のいたるところが青あざになって見るも無惨な姿に変わり果てていた。

「タカミのやつ大丈夫か?」

一方ミレイの方はというと、多少の汚れや切り傷がある程度で大きな傷も無くピンピンしていた。少しある傷も小さな切り傷ばかりで、放っておいたら治るくらいのものだ。

実を言うと、ミレイは山賊を二人とも相手にしても勝っていた。油断なく、容赦なく戦えば容易いことだった。それでもそれぞれで戦うことを提案したのは、タカミの実力が見たかったからだった。いざとなれば自分が助けに行けばいいと思っていたし、事実それをするだけの実力もあった。だが、そんなことは強者との戦いの中ですっかり抜けてしまっていた。

(もう一人のほうも強いだろうな)

相方の身が危ない。額に嫌な汗がにじみ出てきた。

ミレイの目は普通とは違う。外見上の瞳の色に他者との大きな違いはないが、その目に映る景色は少し違っていた。生まれながらに良く見えた。遠くの景色が良く見えたし、動く物体も良く見えた。そして、オーラが見えた。オーラの形や色、宿る量や部位で多くの情報を読み取ることができたのだ。魔力の量、筋力、体質、魔法の技量や戦闘力までもが見るだけでわかる。この目のおかげで窮地を乗り越えられたことは一度や二度ではない。

タカミがただ者ではないことも、良く見えていた。魔法が使えないことも分かっていた。魔法と言ったのは魔法のようなものだったし、別のものであろうとどちらでもよかったからだ。一緒に仕事をしようと言い出したのも、こいつは自分の力になると確信したからだ。さらにはタカミ自身を助けることにも繋がると。

そして、ミレイにはもう一つ特別な能力があった。絶対の信頼を置くその能力は、いわゆる勘だった。ミレイはその勘を信じていた。
どれだけ不確かなものであろうと、ビビッとくるあの感覚は外れたことがない。事実それは当たっていた。最初にタカミと出会った時、こいつにはなにか特別な力があると感じたミレイは試すことにした。蛇に自然な形で拘束を緩めるように指示をし、ちょうどいいところに来た来客を口実に席を外し、力の使用を誘った。結果、明らかに通常では考えられない手段で抜け出した。脱走者の気配を感じた場所に向かえば、大樹から離れた草地にタカミの姿があった。やっぱり自分の勘に間違いはない。この目も曇っていない。

しかし、今回は見誤った。今回だけだった。今まで相手の力量を見誤ったことなど一度もなかった。勘はなにも告げなかった。外れたことはないが、こいつはたまにしか働かない。

(やべー)

ネックレスを持ち出す時に警報を鳴らしてしまった時にはなかった不安がこみあげてきた。山賊の頭を一蹴りした。急いでタカミを探しに走り出せば、すぐに轟音が響いた。それと同時に空へと伸びる細いなにかも木々の間から視認できた。

「な、んだあれ! タカミか?」

正体はわからないが、あれの根元に急いだ。恐らくあそこにいる。

程なく辿り着いたそこには、タカミが倒れていた。脈はあるし息も正常だが、早く治療したほうがいいことには変わらない。医者ではないから、ミレイでは分からない重大な症状がある可能性もある。自分の足でなら大樹の村までそう時間はかからない。ほかの街では面倒なことになる可能性もある。指名手配こそされていないが、脛に傷がある身だ。少しでも騒ぎになるようなことはしたくない。

「あの人に頼むか」

ミレイには一人だけ心当たりがあった。村なら最高の腕を持つ医者がいる。瀕死の人間でもあっという間に全快させる、おかしい腕を持つ医者が。こういう時にいつも頼りにしている人だ。

傷に障らないように横抱きにして、ミレイは全力で跳んだ。その速さはタカミを担いで走っていた時と比べ物にならない。人の目では捉えることは難しいほどの速度で村へと急いだ。

(妙な連中だったな。オーラが継ぎ接ぎみたいだった)

少しだけしこりが残ったが、殴り終わったヤツのことはすぐに忘れた。

ミレイが跳び去った後に残された森は、すっかり荒れてしまっていた。天に向かって生える石の塔は崩れて倒れ始めていた。
野生動物たちもこの騒動でどこかへ逃げてしまい、先ほどとは打って変わって鳥のさえずりも聞こえない静けさとなっていた。

誰もいないはず、何もないはずのこの場所に一つの影が現れる。住処に戻ってきた野生の獣とは違う。四足歩行の生物のシルエットをしていない。鳥のような翼ある存在でもなく、魔獣のように歪な姿もしていない。その影は、石の塔が倒れて地響きがする中を平然と歩いていく。

雲間から光が零れたことにより、暗い森の明度が上がった。影の正体が露わになる。そこにいたのは、タカミがあまりの情報の洪水により混沌のようだと思った男だった。男は探す素振りも無く、一直線に見るも無残な姿になった山賊の元へ来た。意識は無いが呼吸はしているその山賊の額に手を当てた。

「あまり喰べれていないな」

心配している様子は無い。労っているようにも見えない男の手は、額に吸い付いていた。

「この方法は当たり外れがあるな。もっと効率のいいやり方はないだろうか?」

誰かに問いかけているが、この場に男以外の人影も他の生物の影も見当たらない。

「あぁ、そうか。昨日喰べたんだった」

そういえばそうだったと、過去の自分の行動を思い出した男は、答えが返ってこないことに納得した。

額に置いていた手は、いつの間にか物理的な吸引力を持ってその肉を吸っていた。みるみると吸い込まれていき、男よりも山賊のほうが大きいにもかかわらず難なくと衣服以外の全てが男の中に収まった。吸収したはずの体積はどこにいってしまったのか、男の姿は吸う前と変わらない。欠けていた内臓が埋まっただけのように、外見に変化はない。

「損傷も激しい。今回はハズレだ」

男はそう独りごちて、もう片方の山賊の回収に向かった。

#$%&

どうやら僕は寝ていたようだ。知らない部屋で、知らないベッドで横になっている。昨日も同じ体験をした気がする。気がついたらベッドの上だった、なんて経験はそうあるはずないと思うんだけど。

不思議なことに体に痛みが無い。服をめくってみても痣も無い。骨まで折れてそうな感じだったのに、葉っぱや枝に当たってできた切り傷も見当たらない。服も着ていたのと違うし、ここは天国なのかもしれない。実は天国には制服があって、生前着ていた服は持ち込めず、着替えてからじゃないと入れないのかもしれない。そして僕は気絶をしていたから、誰かが着替えさせてくれた、というわけかもしれない。僕は死んでしまっただ。

「お、起きた」

ミレイが部屋に入ってきた。どうやらここは天国ではないらしい。かと言って地獄でもない。死後の世界なんてものではない。ミレイが死ぬなんて想像ができない。死ぬような目には遭うかもしれないけど、この人は寿命以外では死なないだろう。そう思わせるくらいに、ミレイは生命力に溢れている。そう感じる。実際そうだろう。

「どうだ、痛みとかあるか? 丸一日寝てたんだぜ」

丸一日か、徹夜明けでもそんなに寝たことないな。疲れもたまってたんだろう。

「それが、全然ない。どうなってるの?」

「腕のいい医者がいてな。そいつのおかげだ」

医者。現代医療でもこんなすぐに治すのは不可能だ。魔法を使ったのかな。便利だな。もしこれを魔術でできるのなら画期的だ。まだまだ発展途上の魔術では、医療の分野ではあまり活かされていない。研究するお金が足りていないと聞いたことがある。

「ところでここは?」

「村だよ、大樹の村。あそこから跳んできた」

「運んでくれたんだ、ありがとう。街に行った時より大変じゃなかった?」

意識のない人間を運ぶのは、起きている状態よりも労力がかかるはずだ。

「いや? 酔わせる心配とかないから全力で走れたから、揺れを気にしない分むしろ楽だったよ」

なんと、まだ僕はミレイの全速力を体験していないようだ。経験なんてしたくはないけど、あれが全力じゃないなんてまだまだ底が知れない。

「服は直して洗っておいたから」

服は誰に替えてもらったんだろう。ミレイだろうか。それだと恥ずかしいな。あんな綺麗な子に裸を見られたなんて。僕も健全な思春期男子だ、そういうことは気になる。いや、興奮してきたかもしれない。

「ほら、平気ならさっさと着替えな」

部屋に投げ込まれた元の服に着替えた。ほんとに元通りになってる。まさかあんな粗雑な性格のミレイに裁縫スキルがあったなんて。意外と家庭的なのか?

部屋を出るとミレイが壁にもたれかかって待っていた。

僕を一瞥してついてこい、と顎で指図された。ほんとにこんな繊細な裁縫ができるのか? 僕は訝しんだ。

ミレイに連れられて外に出てどこかへ向かう。何も説明がなかったけどどこへいくんだろう。そういえばついてこいとも言われてない。あれはジェスチャーでもない。不良がトイレに呼び出すやつだ。これからトイレに行くのか?

ややあって、山小屋のような建物に着いた。木造でとても簡素な見た目だ。デザイン性は全くないが実用性に優れているような感じだ。

「ちわーす! 先生いる?」

ドアベルが鳴るが、ここの家主らしき人物の姿はない。ミレイの挨拶は不良だけど、トイレに連れてこられるようなことはなくて安心だ。

「あんまり大きな声出すんじゃないよ、普通にうるさい」

奥から出てきたのは。白衣のお姉さんだった。キリリとした切れ長の目で、肩のところまである黒髪の大人の女性だ。

「この人が治療してくれた人だ。礼言っとけ」

この人が、あの怪我をあっという間に治してくれたお医者さんか。魔法で治してくれたんだろうか。それとも実は医療技術がすごい発達していて、特殊な機材があったりするんだろうか。

ミレイはお礼を言わせに連れてきてくれたのか。ちょうどいい。この世界の医療技術に興味がある。

手を差し出されたので、握手を交わした。世界は違っても、挨拶の方法は変わらないようだ。日本人だからあまり握手の習慣は無いけれど。

「タカミです。その節はありがとうございました。おかげで助かりました」

「シャリルだ。無事、回復したようでなにより。別に大したことじゃない。私にとっては片手間だよ」

なんでもないことのように言う。あれを片手間なんてすごいな。それともここでは一般的な医療なのかな。

「片手間って言えるのはあんたくらいだよ先生。相変わらず医療魔法の腕すごいんだから」

「他がヤブなんだよ」

か、かっこいい。やっぱり魔法だったんだ。この世界の魔法は僕らの魔術ではできないことが多い。特に発動までの時間が早い。火を吹く魔法だって、魔術で同じ規模でやろうとすると時間と手間がかかる。

「ミレイは魔法使えるの?」

「多少はな。日常で必要なのしか使えん」

ということは、あの身体能力は完全に素のものということか。これで身体強化とかの魔法が使えたら世界を狙えるのでは? 今でも狙えそう。

「あの、シャリルさん。よろしければ魔法を教えていただけませんか?」

これでも学者の卵だ。あの街で魔法を見た時から興味が尽きない。魔術と似て非なるその仕組みが知りたい。魔法を学ぶことで、帰るヒントも見つかるかもしれない。創造システムの見直しも視野に入れているけど、上手くいかないかもしれないから可能性は広げておきたい。

「いいけど、私は医者だよ? 魔法の初歩なら教えられるけど、それだけだ。基本的には医療のことしか知らない。ただ魔法を覚えたいんなら別の人がいいと思うけど」

「いえ、構いません。一流の魔法が見たいんです。分野は問いません。でも、初歩の魔法を教えていただければ嬉しいです」

この人は一流の医療魔法使いのようだから、教えてもらって損はない。医者志望ではないけれど、分野は違っても一流に触れることはいい経験になるはずだ。

「そう言うんならいいよ。それと、一つ違う」

彼女は髪をかき上げて、自信に満ちた声音で言い放った。

「一流じゃなくて超一流さ」

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